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アメリカ公民権運動の最中、アラバマ州セルマで起こった血の日曜日事件を題材に描いた歴史ドラマ。1965年3月7日、前年にノーベル平和賞を受賞したマーティン・ルーサー・キング・Jr.牧師の指導の下、アラバマ州セルマで黒人の有権者登録の妨害に抗議する600人が立ち上がる。白人知事率いる警官隊は力によってデモを鎮圧するが、その映像が全米に流れると大きな声を生み出し、2週間後に再び行われたデモ行進の参加者は2万5000人にまで膨れ上がる。事態はやがて大統領をも巻き込み、世論を動かしていく。


いろいろ感じました。

不思議なことに、これまでマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師について描かれた長編映画はなかったらしく、僕も黒人の人権運動に命をかけて尽力している中途で暗殺された、くらいの浅い知識しかなかったので、ちゃんと知っておきたいなと思っていました。
今年のアカデミー賞作品賞にノミネートされた作品でもあり、とてもしっかりとした作り。
実際のキング牧師のエモーショナルな演説を再現するのに主演のデヴィッド・オイェロウォ(言いづらい!)は苦労したというけれど、十分に感動的で、黄色人種の僕でさえ完全に惹きこまれてしまいました。

物語は1964年に牧師がノーベル平和賞を受賞するシーンから始まり、その翌年1965年にアラバマ州で起きた「血の日曜日事件」の真相、そしてそれから2週間後の州都モンゴメリまでの5日間に亘る「大行進」が描かれます。
ベトナム戦争さなかのアメリカ、南部ではいまだ選挙権をもつ黒人はわずか。さまざまな思惑に揺れるジョンソン大統領。キング牧師自身が抱える苦悩。これらを描くために、映画の焦点を短期間に絞ったことは正解だったと思います。
すでに人種差別を禁止する公民権法を制定していたリンドン・ジョンソン大統領はこの行進の後、まだ立ち遅れていた投票権法の改正に大きく前進することになるのです。

行進の象徴的なモニュメント、エドマンド・ペタス橋。
渡りきったところに警官隊、騎馬隊、自警団が武器を持って待ち構えているのです。
[Bridge]
「血の日曜日」の警官隊らによるあまりにも理不尽で残虐な暴力は映像で全米のテレビで流れます。2週間後、キング牧師と共に歩こうとする支持者は黒人のみならず人種差別に反対する白人も含め、数千人にふくれあがり、その行進に警官隊は道を譲り、キング牧師は州都モンゴメリにたどり着くのです。ハレルヤ!

レイ・チャールスの伝記映画「レイ」で描かれたように、牧師の少年時代も少し描いてほしかった気もします。キング牧師がなぜキング牧師になったのか、という部分も見てみたかった。

余談ですが、サイモン&ガーファンクルのアルバム「パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム」(1966)に収められた「7時のニュース、きよしこの夜」は、「Silent Night」にこの時代の世相を語るラジオ放送のナレーションが次第に大きく被さっていきます。
レニー・ブルースが死去したとか、ベトナム戦争の拡大はやむを得ないという政府見解とか暗いニュースばかりです。
その中で、キング牧師がシカゴでデモ行進をする予定である、ということも語られています。
 

「グローリー」(原題は「Selma」)の舞台となるのはアラバマ州。
1962年の映画「アラバマ物語」は僕の大好きな映画です。
この映画のテーマはやはり人種差別問題。ある町で起きた白人女性殺害事件の容疑者となった黒人青年。曖昧な証拠と証言によって青年は、有罪判決に追い込まれていきます。有罪の根拠は明らかに「容疑者が黒人だから」というだけで。
弁護士グレゴリー・ペックはこの差別裁判に立ち向かいます。同じ白人から危害や脅迫を受けながらも。
先年アメリカで行われた「アメリカ映画史上最高のヒーローは?」というアワードで第1位に選ばれたのは、バットマンでもスーパーマンでもスパイダーマンでもキャプテン・アメリカでもランボーでもなく、「アラバマ物語」でグレゴリー・ペックが演じたフィンチ弁護士でありました!



セルマ以後も続く対立。
それでもひとつひとつ「非暴力抵抗」で立ち向かい、差別と偏見の壁を突き崩そうとしたキング牧師は、セルマからわずか3年後、1968年に凶弾に倒れるのです。

映画「グローリー」は、観る者にあらためて人種差別のシステムを明らかにしているのと同時に、リーダーの在りようを指し示しています。スピルバーグの「リンカーン」(2012)の中で絶対的リーダー、リンカーンでさえ悩み苦しむ姿を見せました。キング牧師もリーダーであることで家族を犠牲にせざるをえない苦しみに直面します。それでも、リーダーとして、ゆるぎない信念に従って、夢や理想を語らねばならないのです。

僕らは、いまそんなリーダーを持ち得ているか。

その意味では、この映画は多民族国家アメリカだからでもなく、1960年代という時代だからでもない、現在の日本にも通じるものを熱く語ってくれています。


セントラル劇場で8月28日まで上映です。是非観た方がいいよ!(*^_^*)




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